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30代でも“ヒートショック”は起こり得る…【女医監修】今注意すべき「入浴時の温度差」

寒い季節に注意したいこととして、“ヒートショック”が挙げられます。高齢者と一緒に暮らしている方は、普段から気を付けている家庭も多いかもしれませんね。家族はもちろん、年齢に関係なくヒートショックは注意が必要です。今回は女医の筆者が、注意すべきポイントや対策を解説いたします。

ヒートショックとは?

ヒートショックとは?

ヒートショックとは、気温の変化によって血圧が上下することで心臓や血管の疾患が起こることを指します。具体的には、失神したり、心筋梗塞・不整脈・脳梗塞を起こすことがあり、特に冬場に多く見られます。

入浴事故の危険性

厚生労働省の研究班の調査によると、入浴中の推定急死者数として約19,000人もの数に及ぶと言われています(※1)。入浴事故による死亡は、死因統計のみでは実数把握が困難なので、必ずしもヒートショックによる死亡というわけではありません。ですが、入浴中の事故の多くが浴槽内で起きており、熱いお湯に肩までつかるという日本固有の入浴スタイルが影響しているケースも考えられます。ヒートショックは高齢者に多いのですが、若い世代で起こることもあるので注意が必要です。

ヒートショックが起こる原因

ヒートショックは、冬場に暖房の効いたリビングから脱衣所に移動し、浴槽に入るときなどに起こることが多いです。リビングから脱衣所に移動した際には、寒さに対応するために血圧が上昇。衣服を脱いで浴室へ入るとさらに血圧が上昇しますが、浴槽に入るときには急に身体が温まるため、血圧が下降します。これによって、心筋梗塞や脳梗塞などが起こることがあると考えられています。

ヒートショックが起こりやすいのは、脱衣所と浴槽の移動だけではありません。寝室と廊下、リビングと廊下など、温度差が大きくなりやすい場所を行き来することでも起こることがあります。特に10℃以上の温度差がある場所は危険とされており、注意が必要です(※2)。

ヒートショックが起こりやすい時期

ヒートショックが起こりやすい時期

冬は特にヒートショックの危険が高まります。昔ながらの日本家屋や温泉施設などでは床がタイルだったり、暖房設備がない場所が多く、温度差が生じやすくなるため注意が必要です。

ヒートショックを予防する対策

ヒートショックは急激な温度差によって起こることから、できるかぎり温度変化による負担をかけないようにすることが大切です。自分はもちろん、年齢を重ねた親世代はさらにヒートショックのリスクが高いので要注意。ここでは、親と同居している人向けの対策も含めてご紹介していきます。

入浴前に脱衣室や浴室を暖める

生活空間であるリビングは暖房で暖めていても、脱衣所での防寒は何も行っていないという人も多いです。寒い時期には、脱衣所にも暖房器具を置いておくなど、気温差が生じにくいようにしましょう。浴室内に暖房がない場合は、お湯を浴槽にためるときにシャワーから給湯するのがおすすめ。そうすると、シャワーの蒸気で浴室の温度を上げることができます。

勝手に沸かすことができる浴室設備の場合は、浴槽内のお湯をかき混ぜることで蒸気を立てるようにするのもいいですね。浴室内の壁にシャワーで温水をかけて温めると、浴室内を早く温めるのに役立ちます。

湯温は41度以下に設定し、長風呂は避ける

寒い冬は熱いお風呂に長時間浸かっていたいと思う人も多いかもしれません。ですが、熱すぎるお湯に長時間入浴すると、意識障害を起こすリスクが高まります。ヒートショックの予防としては、お風呂の温度は41度以下を目安にしてみてください。浴室内に温度計やタイマーを置いておくなど、温度や時間などがわかりやすいようにしておくのもいいですね。

浴槽から急に立ち上がらない

浴槽から急に立ち上がらない

横になっている状態から立ち上がったとき、ふらっとした経験をお持ちの方も多いのではないでしょうか。浴槽から立ち上がる際には、特にこの立ちくらみが起こりやすいので注意が必要です。入浴中には、体に水圧がかかっています。そこから急に立ち上がると、脳に行く血液が減ることで、めまいや立ちくらみなどを起こすことがあります。

浴槽から出るときは、手すりなどを使ってゆっくり立ち上がるようにしましょう。若い方でも、飲酒しているときや妊娠中は、立ちくらみやふらつきを起こしやすいので注意が必要です。

食後すぐの入浴や、飲酒後の入浴は避ける

飲酒によって酩酊している状態だと、いろいろな感覚が鈍りやすくなり、事故発生につながることがあります。飲酒をしたら、アルコールが抜けるまでは入浴しないようにしましょう。

高齢世代では、食後に血圧が下がりすぎることで起こる、食後低血圧で失神してしまうことがあります。そのため高齢者には、食後すぐの入浴は避けてもらった方がよいですね。また、深夜や早朝など、同居者が異変に気づきにくい時間の入浴も避けてもらうようにしましょう。

お風呂に入る前に同居する家族に一言かける

入浴中に事故が起こったときには、早期に対応する必要があります。そのため、入浴前に同居者に声をかけるようにしましょう。もし親が入る場合は、「いつもより入浴時間が長い」「音がまったくしない」「突然大きな音がした」などの異常がないか注意してください。何か異常を感じた場合は、様子を見に行ったり声をかけたりすることで、早期に対応しやすくなります。

おわりに

気温差の影響による血圧の変化は、年齢に関係なく誰にでも起こることがあります。そのため、「自分は元気だから大丈夫」ではなく、「自分にも起きるかもしれない」と意識することが大切ですね。

【参考】
※1 厚生労働省.浴室内の死亡として報告された事例についての検討
※2 東京都健康長寿医療センター.冬場の住居内の温度管理と健康について
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筆者情報

ママ女医ちえこ

ママ女医ちえこ(産婦人科医)
産婦人科専門医であり、プライベートでは4人の子どもを育てる母。2020年からはYouTuberとしても活躍し、性教育としての医学情報や健康情報を中心に、女性が自分の体について考えるきっかけになる専門性を生かした情報を発信。現在のチャンネル登録者数は15万人を超える。著書に『子宮にいいこと大全 産婦人科医が教える、オトナ女子のセルフケア』(KADOKAWA)、『医師がすすめる エビデンスベースの「体にいい」食習慣』(クロスメディア・パブリッシング(インプレス))がある。
YouTube:https://www.youtube.com/c/mama女医ちえこ