いまわたしたちにできること~美容・健康・環境も~

妊娠・出産に振り回されない生き方をするために。子供を望んだときのために知っておきたいこと。

「いずれは妊娠・出産を」 と思っていても、いざそのときになってから、なかなか恵まれずに悩む人も…。今のうちから備えておくといいことや、妊娠&出産をめぐる様々な現実、さらに日本でも話題になることが増えた卵子凍結について、不妊治療に詳しい杉山力一先生に伺いました。

“今”できることをやっておけば、“いつか”のときも安心できる。

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【ananフェムケア連載】これからの妊娠&出産

今はまだ、現実的ではなくても、いつかは子供が欲しいと考える人も少なくないだろう。子供を持つことだけが全てではないが、今後のライフイベントに備えて、今からできることはあるという。

「まずは、不妊の原因となる子宮内膜症や子宮筋腫を早期発見できるように、若いうちから年に1回、婦人科検診を受けてほしいですね。『ちゃんと検診を受けておけばよかった…』と後悔しながら、不妊治療を受けざるを得ない方はとても多いです。不妊治療は、男性のほうに原因があり、手術するケースもありますが、精子に対する治療はほぼありません。どうしても、9対1以上という比率で、女性の負担が大きくなるのが現実です」

そう話すのは、不妊治療を専門にする杉山産婦人科理事長の杉山力一先生。先生は、子宮内膜症の予防となり、PMS症状や生理そのものを軽くしてくれる低用量ピルの服用も勧める。また〝いつか〞のために、卵子凍結という選択肢も知っておいてほしいと語る。

「定期検診から不妊治療、卵子凍結まで、妊娠に関することで、後回しにしていいことは何もありません。そのことはぜひ覚えておいてください。年齢とともに、卵子の数が減り、その機能が衰えるのは生殖的に変えられない現実です。しかし、若いうちに卵子を採取しておけば、妊娠率はほとんど下がりません。その道を選ぶかどうかは別にしても、そういう技術があることを知っておき、ご自身の選択肢を増やしてほしいのです」

Q.すぐに妊娠を望まなくても、いつかに備えてやっておくべきことは?

A.将来、後悔しないために、年1回は婦人科検診を。低用量ピルも選択肢のひとつ。

出産に向けての準備が不妊症の治療からとなると、心身ともに大変。トラブル予防のためにも、できることはしておきたい。「その筆頭が子宮内膜症。年1回エコー検査を受けてほしい」。低用量ピルも排卵を止めることで、子宮筋腫や子宮内膜症の予防にもなる。「不妊治療にあたっている医師の実感として、低用量ピルを服用していた方とそうでない方では、同じ年齢でも排卵で卵巣を使っていない分、前者のほうが、妊娠率が高いです」

【低用量ピルの服用】
いまだに避妊のイメージが強いピルだが、ピルを飲むと排卵が止まるため、不妊の原因となる子宮内膜症になるリスクが下がるというメリットも。興味がある人は、早めに婦人科で相談を。

【年に1度の婦人科検診】
不妊症の原因となる子宮内膜症は、早期発見により大事に至らないようにできる病気。最低でも2年に1回、できれば年1回、エコー検査を。会社の健康診断には含まれていないこともあるので注意。

Q.年齢を重ねると、妊娠に至る可能性はどのくらい変わるの?

A.卵子の質は年齢に応じて低下し、35歳を過ぎるとぐっと妊娠率が低くなる。

健康な女性が自然妊娠する確率は1周期あたりで、25歳、30歳の場合はそれぞれ25~30%、35歳になるとグッと下がり18%、40歳になると5%、45歳では1%となります。加齢に伴い妊娠率が低くなる理由は、卵子の質が年齢に応じて低下していくから。「働き盛りでもある20代で出産を現実的に考える人は、それほど多くないかもしれません。ただ、加齢で妊娠率が低下するということは、知っておいてほしいですね」

妊娠中に仕事を続けるのは、やっぱり大変?

A.無理さえしなければ、続けられます。国の制度も活用を!

妊娠中に仕事を続けるには、パートナーや職場の理解は欠かせない。「職場に対しては、妊娠中に働く女性が病院で指導を受けた内容を職場に伝えられる『母健連絡カード』という書類があります。カードが提出された職場は、適切な措置を講じなければなりません」。ちなみに、妊娠中に働くと流産の可能性は高まる? 「流産のほとんどは染色体の異常。万が一、流産しても『働いていたせい』とご自身を責めることはありませんよ」

妊娠→ 出産の主なスケジュール

妊娠初期(1か月~4か月)
3か月 つわりがピークに
4か月 つわりが落ち着く

妊娠中期(5か月~7か月)
5か月 お腹が目立ってくる
7か月 腰痛や足のつりなどが起こりやすい

妊娠後期(8か月以降)
8か月 お腹が張りやすくなる
9か月 多くの人が産休に
10か月 出産へ

不妊治療って、具体的に何をするの?

A.タイミング法、人工授精、体外受精の順番で試していくのが一般的。

不妊治療は、タイミング法、人工授精、体外受精の3つ。精子に問題がある場合は、精子を卵子に直接注射する顕微授精が行われる。若いほうが妊娠率は高いので、治療を受けるのは早いほうが望ましい。「生理が順調で、排卵日もわかって性交渉を持っているのであれば、妊娠に至るまで半年が目安。授からない場合は男性側の原因も考えられますので、精子検査を受けておいたほうがいいでしょう」。気になる治療費だが、来年春から保険適用範囲が拡大する方向で議論が進んでいる。「回数や年齢制限が自治体によって異なりますが、保険が適用されない治療も、補助金で大部分をカバーできますので、活用を」

【Check!】不妊カップルの約半数は男性側に問題があるという現実。
不妊というと、原因は女性にあると思われがちだが、男性にだけある場合、男女ともにある場合がそれぞれ24%と、48%は男性にもある。男性も加齢によって精子の質が低下するため妊活、時には不妊治療が必要に。

不妊治療の4 つのS T E P

STEP1 タイミング法
1周期:数千円程度
排卵日3日前くらいから性交渉を持つと妊娠の確率が高まる。その日を基礎体温や卵胞チェックなどをもとに医師が推測し、指導する不妊治療の第1段階。

STEP2 人工授精
1周期:3~5万円
半年ほどタイミング法を試した後、子宮の入り口から精子を直接注入する人工授精へ。授精後は、自然妊娠と同じ流れで、妊娠率は1回で5~10%。

STEP3 体外受精
30~60万円
人工授精による妊娠率は、5回目以降はかなり低く、体外受精への検討が必要に。取り出した卵子と精子を受精させ、発育した胚を子宮に移植して着床を促す方法。

STEP4 顕微授精

1周期:15~40万円
細いガラスの針の先端に精子を入れ、顕微鏡で見ながら卵子に直接注入する方法。男性側に原因がある不妊症でも、精巣に少しでも精子があれば妊娠の可能性がある。

Q.最近、よく聞く「卵子凍結」どんなメリットがあるの?

A.妊娠しやすい時期を引きのばすことができます。
(ただし、妊娠が成立するという確実性はありません)

生き方が多様化した現代。結婚も出産もそれぞれのかたちがある。ただ、いずれは子供が欲しいと思っているけれど、それが妊娠しやすい時期とは限らない。加齢によって、妊娠率が低下する現実があるからだ。そこで、将来の妊娠に向けて、卵子の時間をストップできる「卵子凍結」という方法がある。「卵子を液体窒素のタンクに冷凍保存して、その時点から変化を止めることができるのが卵子凍結です。25歳で採取した卵子は、35歳でも40歳でも、ほとんど25歳のときの状態で使えます。凍結した卵子も、25歳で採取すると妊娠率は5割強ですが、35歳ではその約半分に。自分がやるイメージが湧かない若い世代ほど、考えてほしいですね」。費用は採取時以外に、保管料がかかる。「高いと思われている保管料ですが、杉山産婦人科が提携するGrace Bankでは15個まで年間3万円、1日あたり100円以下。現代を生きる私たちの、子供を望んだときの“保険”として、考えてみるのもよいかも」

副作用は大丈夫?

排卵誘発剤の副作用で、卵巣過剰刺激症候群という合併症を起こしたり、採卵時や採卵後に、まれに出血する可能性がある。感染症のリスクもゼロではない。生まれてくる子供へのリスクは、ほぼないとされている。

採取のときは入院するの?

入院の必要はない。採取する卵子が5個程度であれば、座薬の痛み止めを使い、麻酔なしで採取する。その場合、その日のうちに仕事に行くこともできる。麻酔をした場合でも、採取後は自宅で安静にしていれば大丈夫。

NEWS 広がる「卵子凍結」という選択肢

アメリカでは年間1万人以上が選択
アメリカでは、2012年に生殖医学会が特別なリスクはないと発表。それ以降、加速度的に症例数が増え、2018年では1万3275件が行われた。パリス・ヒルトンなどセレブも利用している。ただ、国によって卵子凍結の考え方や規制は異なるので注意を。

メルカリが福利厚生に卵子凍結を採用
アメリカでは2014年、Facebookが卵子凍結する従業員に対する費用負担を開始。他のIT企業などもこぞって支援に動いた。日本では、メルカリが今年5月から卵子凍結支援制度を試験導入。社員の配偶者やパートナーも対象で、200万円/子が上限。

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お話を伺った方 杉山力一 先生

日本産科婦人科学会専門医、日本生殖医学会生殖医療専門医。2001年、不妊治療専門の杉山レディスクリニックを開院。「Grace Bank」が開催する卵子凍結に関する無料セミナーにも登壇。

イラスト・山口歩 取材、文・小泉咲子

※『anan』2021年11月17日号より。