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憂うつにならない! 医師が教える「メンタル不調を防ぐ」簡単なコツ

新年度、環境の変化に心身ともに慣れず、ストレスを感じている人は多いよう。そこで、産業医の竹中奈織先生に、「簡単にできるメンタル安定法とストレス対策」をお聞きしました。

生活に変化があった人は要注意!?

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日本では、3月4月は卒業、入学、入社、転職、転居、異動発表などイベントごとが多く、生活に変化があることが多い時期です。環境や人間関係や生活が変化することで、3月4月は少し気負いすることが多い時期なのです。

そしてその環境の変化にうまく対応できない状態が続くと…眠れない、頭痛、吐き気、倦怠感、起きられない…など5月6月ごろに体調を崩し、社会生活が送りにくくなる人が多くみられます。

これを一般的に5月病(医学用語では適応障害)とよびます。自分はメンタル疾患とか関係ないと思っていても、メンタル疾患は条件が揃ってしまうと誰にでも起こる可能性があります。
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今回はメンタル不調を防ぐためのコツを少し医学的に掘り下げて、私が産業医としてお話させていただいている、すぐに実践できる方法をお伝えしたいと思います。

自分の変化を知って、早めに対処し、自分のケアをすることをセルフケアといいます。それではセルフケアのために必要な知識をお話していきます。

ストレスって? 放っておくとどうなるの?

医学的には、外からの刺激に対するカラダや心の反応のことを“ストレス反応”といい、その反応を生む刺激のことをストレッサー(ストレスの原因)と言います。

例えば花粉やたばこの煙、騒音、気温、人間関係、睡眠不足、感染などのストレッサーによって私たちのカラダはさまざまなストレス反応(動悸、鼻水、頭痛、汗など)を引き起こします。

ストレスと聞くと、嫌なことや辛いイメージがありますよね? でも実は日常の変化や一見幸せなことや楽しいこともストレスの原因になるのです。遠足の前の日に眠れなくなった経験はありませんか? 非日常な出来事はカラダや心の変化がでやすいものなのです。嫌なことだけでなく結婚や出産や昇進などのお祝いごとも日常の変化を伴うため、ストレス反応がでることがあることも知っておいて下さい。

ストレスは日常生活の中で“人生のスパイス”と言われており、いい刺激にもなり、活力につながることもありますが、うまく適応できない時や、長い期間ストレスにさらされ続けると、うつ病などのメンタルヘルス不調だけでなく“ストレス関連疾患”といわれる、血圧や血糖値の上昇、呼吸器疾患、皮膚疾患、心臓血管系など、全身の健康に悪影響を与えるとされています。
(※2)

ストレスの原因も反応も百人百色

ストレスの原因は人によって異なります。生きていたら本当にいろいろありますよね。就職、結婚、離婚、出産、子育て、試験、騒音問題、健康問題、人間関係、引っ越し、借金、介護、死別、恋愛、異動、転職、上司、仕事の質、残業時間…。そこにそれぞれの個人の性格、考え方、感じ方が加わります。

人前で話すことが得意な人もいればそうでない人もいますし、散らかっていても平気な人もいれば、そうでない人もいます。あなた自身、苦手に感じること(時間がかかること)、ストレスに感じることは何ですか?

4月は特に、新しい環境になることが多く、焦ったり、周りと比べてしまったり、自分はダメな人間だと思ってしまう人や想像していた新生活と違うことに戸惑ってしまう人がいます。しかし、あなたと周りの人は、環境も性格も得意分野も違うので、同じようにできなくてもいいのです。

また、相手にも自分が求める期待値を抱いてしまうこともありますが、これまた、相手は他の人間なので、思ってたんとちゃーう! ってことは続出してあたりまえ。と余裕をもった心構えも必要ですね。

わかっているようで実際聞かれたらわかっていないことも多い自分自身のこと…客観的に、自分を一度見てください。一枚の紙に自分の得意なこと、苦手なこと、生活や仕事での環境、性格などを箇条書きで書き上げてみると、とてもわかりやすいですよ。産業医の現場では、「NIOSH職業性ストレスモデル」を使って説明していますのでご参考までに。
(※3)

自分のストレス反応を知ってますか?

自分のストレスの原因や環境を理解できたら、その次にストレス反応を知ることが大切です。ストレス反応は大きく3つに分けられます。実はこれをわかっていないと、自分のカラダからのイエローサインに気づかず、一気にメンタル不調まっしぐらになる可能性があるのです。

こんなことはありませんか? 胃が痛くなり食欲がない。休みの日も仕事のことばかり考えてしまう。疲れると甘いものが食べたくなる。爆買いをしてしまうなど…もちろん好きでしていることもあるかもしれませんが、何かのストレス反応かもしれません。

3つの反応の例をあげてみるので、自分のストレス反応をそれぞれ考えてみてください。

1. 身体的反応
動悸、めまい、頭痛、吐き気、腹痛、倦怠感、下痢、ニキビ、月経不順、不眠、かゆみ、食欲低下、肩こり、眼の疲れ、関節痛、胃の痛み など

2. 心理的変化
イライラ、悲しみ、落ち込み、焦り、やる気が出ない、怒り、そわそわ、興味の低下、不安、集中できない、自分はダメな人間と思ってしまう など

3. 行動的変化
お酒の増加、爆買い、間食、タバコやコーヒーなどの増加、無口、多弁、ミスの増加、睡眠が乱れる、怒りっぽくなる、引きこもる、一人になりたい、携帯の時間が増える など

自分がストレスに感じることがあったときの反応を知ることで、あ! 私今イエローサインが出てる! だからちょっと休憩して肩回ししとこ! 深呼吸しよう! などとストレス回避につなげる“合わせ技”を持つことができるのです。この合わせ技を持っているだけで、ストレスにうまく対応し、ストレスの山を低くできるようになるのです。

運動、睡眠、人との会話は意識的に

疲れたな~と思うときはもちろん何もせず休むことも大切ですが、毎日カラダを動かして、1日1万歩を目標に散歩などの軽い運動をするようにしてください。

好きなスポーツや、ジムで汗を流すことも、脳がストレスの状態から離れることができるためお勧めです。運動習慣のない人は、まずは日常の動きに少し工夫をして、速歩をしたり、坂道や階段を使うなどでも十分です。まだまだこのコロナ禍で、外出しにくい風潮を感じている人もいますが、散歩はどんどんしてくださいね。

睡眠に関しては、最低6時間とることがカラダ・心の予防医学において必要です。しかし、すでに寝つきが悪く、眠りたくても眠れていない人は、睡眠のホルモンを整いやすくするための方法があるので試してみてください。

午前中にできるだけ太陽の光を浴びること(散歩などの有酸素運動をするも効果的)や寝る前の腹式呼吸、朝起きたらカーテンを開けて、コップ1杯の白湯を飲むことを続けることで、少しずつ自立神経が整うことがあるので、ぜひやってみてください。

それでも睡眠障害が続く時は、早めに心療内科や内科で相談してみることも考えましょう。また、休みの日はゆっくり寝たいものですが、連休中も普段起きる時間のプラス1時間程度までのズレにしておくと疲れを感じにくくすることができます。

そして、つらいことや悩んだり不安に感じたりしていることがあるときは、身近な人に話を聞いてもらいましょう。どんなに安心する相手に関係のない話をつらつらしていても、気持ちは落ち着きません。きちんと自分の不安や悩みを話してください。

もちろん、人に話をしても解決しないことも多いので、意味がないと考える人もいますが、聞いてもらったという安心感で心が軽くなることもあります。また、人の考え方を知ることで、自分の気持ちの整理や切り替えができるようになる場合もあります。

そして、職場での悩みは上司や総務部に聞いてもらうことが大切です。同僚や家族に相談することも大切ですが、状況を良く知っていて対策を立ててもらいやすい立場の人に話すことが、症状改善に大きな役目を果たすことも知っておいてください。

すぐできるストレス対策を持とう

あなたのストレス回避方法はなんですか? と尋ねると、好きな動画を観る、飲みに行く、甘いものを食べる、スポーツ、ひたすら寝る、音楽を聴く、アロマを焚く、ヨガをする、子どもと遊ぶ、漫画・本を読む、買い物をする、お風呂時間、ペット、山登り、などひとそれぞれ、多岐にわたって答えがあると思います。

ただしここで、飲酒やタバコ、食べることは特にですが、ほかのことも、度を超えてしまうと自律神経を乱してしまったり、健康被害をきたすこともあるので気をつけてください。

ポイントとしては、ストレスは感じたときに発散できるのが一番いいので、帰宅後や週末にしかできない回避方法だけでなく、その場ですぐできるリラックス方法もたくさん持ち合わせておくことが大切です。その場でのリラックス方法としては、その場を離れる、眼を閉じる、深呼吸をする、肩を回す、温かい飲み物を飲む、人と話す…などの方法があります。

例えば、苦手な人と話をして、とても疲れた…という場合、すぐに仕事に戻るのではなく、癒し効果のある写真をチラッとみてからまた仕事をするのもいいですね。また、続けて何か作業をするときは1時間に1回の小休憩が推奨されているので、集中しすぎて疲労感を感じやすい人は、タイマーを使って没頭しすぎず、カラを動かしたり、リラックス時間を持つこともやってみてください。

春は忙しい季節です。新年度で気が張るし、目標を立ててしまったり、頑張ってしまいますよね。だからこそ、いつもの自分と違うサインに早めに気づいて、見て見ぬふりをしないようにしてください。

人生のライフステージは誰しも変化します。そしてそのたびに自分自身も変化していきます。昔の自分や周りの人達と今の自分比べても仕方ありません。今の自分の環境、状態、ストレスの原因、反応を理解して、自分で体調を整えていく練習をしていきましょう。それでもやはりつらい、いつもと違う自分がいる場合は早めに医療機関や職場の産業医がいれば相談してみてくださいね。
(※4)

※1 こころと体のセルフケア|ストレスとこころ|こころもメンテしよう ~若者を支えるメンタルヘルスサイト~|厚生労働省

※2 2 ストレスからくる病:ストレス軽減ノウハウ|こころの耳:働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト

※3 職場のメンタルヘルス|NIOSHの職業性ストレスモデル

※4 みんなのメンタルヘルス|厚生労働省
相談窓口案内|こころの耳:働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト

竹中奈織
日本内科学会認定医
日本医師会認定産業医
日本抗加齢学会専門医

病院勤務、在宅診療を経て現在産業医を中心に働いています。自分自身の妊娠糖尿病や妊娠高血圧になった経験もあり、多くの人に今だからこそできる予防医学の考えを広めていきたく、未病のうちから人を診ることができる産業医や予防医学専門医として、身体も心も健康に過ごせる方法を伝えていきたいと思っています。プライベートでは3児の母として奮闘中です。

カオリ内科糖尿病クリニック 非常勤医師
※ クリニック下で有機野菜を使用したサラダや低糖質スイーツを提供するアンチエイジングのできるカフェ『オーベストシモーネコーヒー カフェ 大阪』の医師監修をしています。

(C)Dmitry Ageev / EyeEm/Getty Images